猫が心臓病と診断されると、「塩分はどこまで減らすべき?」「療法食にすぐ替えたほうがよい?」「食べないときは何を与える?」と迷うでしょう。心臓病の猫の食事は、病名だけで一律には決められません。症状のない段階か、うっ血性心不全を起こしているか、腎臓病などを併発しているか、利尿薬を使っているかによって優先順位が変わります。
人の心臓病と同じ感覚で極端な減塩をしたり、自己流の手作り食に替えたりすると、猫が食べなくなり、かえって体重や筋肉を失うことがあります。食事は治療を支える一部であり、薬や定期検査の代わりではありません。
この記事では、塩分、カロリー、たんぱく質、タウリンなどの考え方と、食欲が落ちたときの安全な対応を整理します。
知りたいペット・動物情報を探す
食事・健康・しつけ・品種・暮らしなど、テーマ別に情報をまとめています。
ペット・動物ガイドから探す →
- 心臓病の段階によって食事管理が異なる理由
- 塩分を減らしすぎず高塩分食品を避ける考え方
- 体重・筋肉・腎機能・電解質を一緒に見る方法
- 食欲低下や呼吸異常で受診を急ぐ目安
食事管理は病状別に行う
心臓病という診断名だけでは、適切なフードは決まりません。検査結果、症状、治療薬、併発疾患を踏まえ、獣医師と目標を共有することが出発点です。
無症状と心不全は違う
猫の心筋症には、肥大型、拘束型、拡張型など複数の型があります。同じ肥大型心筋症でも、心臓の形の変化だけで症状がない猫と、肺や胸に水がたまるうっ血性心不全を起こした猫では、治療も食事の優先順位も違います。
ACVIMの猫の心筋症に関するコンセンサスでは、症状のない段階を含めて病期を分け、進行リスクに応じた管理を示しています。心臓病が見つかったからといって、すべての猫に同じ薬や厳格な減塩食が必要になるわけではありません。
症状のない猫では、年齢に合う猫用総合栄養食を適量食べ、適正な体重と筋肉を保つことが基本です。うっ血性心不全では、薬による体液管理とともに高塩分の食品を避け、必要に応じたナトリウム調整を検討します。重い心不全で体重や筋肉が減っている場合は、塩分制限より十分なカロリーを食べられることが優先される場合があります。
併発疾患も食事を左右する
心臓病の猫は、腎臓病、甲状腺機能亢進症、高血圧、糖尿病、消化器疾患などを併発することがあります。たとえば腎臓病ではリンやたんぱく質、カリウム、水分などへの配慮が必要になり、利尿薬を使う心不全では脱水や腎機能、電解質の変化に注意します。
心臓に配慮したフードと腎臓病用療法食のどちらを優先するかは、両方の重症度、検査値、食欲で変わります。自己判断で複数の療法食を混ぜると、それぞれの栄養設計が崩れ、摂取量も把握しにくくなります。主治医が必要に応じて循環器や栄養の専門医と連携し、現実的な食事計画を決めます。
診察では「心臓にいいフードは何ですか」だけでなく、現在の病期、塩分制限の必要度、一日の目標カロリー、併発疾患で優先する栄養項目を確認すると、家庭で迷いにくくなります。

サプリメントは目的を整理して選びましょう
ペット用サプリメントには、関節や皮膚・被毛、腸内環境などさまざまな目的の商品があります。あくまで日々の健康管理を補助するものとして考え、体調に不安がある場合は獣医師へ相談しましょう。
塩分は極端に減らさない
塩分に含まれるナトリウムは体液量の調整に関わりますが、少なければ少ないほどよいわけではありません。心不全の重症度と食べられる量を見ながら調整します。
高塩分食品を避ける
心不全では体内にナトリウムと水分が保持されやすくなります。急に多量の塩分を摂ると、安定していた猫でも体液貯留に悪影響を与える可能性があります。そのため、ハム、ソーセージ、ちくわ、かまぼこ、チーズ、味付けされた魚や肉、スープ、だし汁、人用のおかずなどは与えません。
「一口だけ」でも、猫の体格から見れば無視できない量になることがあります。投薬のために食品を使う場合も、毎日繰り返すものなので、塩分とカロリーを含めて主治医に確認します。人用の減塩食品も猫用に設計されておらず、タマネギやニンニクなど有害な原料、香辛料、甘味料を含む可能性があるため代用できません。
Merck Veterinary Manualの心不全における栄養管理でも、高塩分のおやつや人の食べ物を避けることが重要とされています。一方、ナトリウム制限の強さは心不全の程度に応じて考え、十分な摂取カロリーを維持する重要性も示されています。
厳しい制限には不利益もある
ナトリウムは体に必要な栄養素です。極端に制限すると、食事の嗜好性が下がって食べなくなる、食事全体の栄養バランスが崩れるといった問題が起こり得ます。また、体はナトリウムが少なくなると、体液と血圧を保つ仕組みを活性化させます。そのため、症状のない猫や軽い心不全で、強い制限が常に利益になるとは限りません。
特に体重や筋肉が減っている猫では、低ナトリウム食にこだわって食べる量が落ちるほうが問題になる場合があります。ACVIMのコンセンサスでも、治療に反応しにくい重い心不全で心臓性悪液質がある場合、ナトリウム制限よりカロリー摂取を優先する考え方が示されています。
表示だけでは判断しにくい
日本のペットフード表示では、ナトリウム量が必ず目立つ形で記載されているとは限りません。「シニア用」「室内猫用」「国産」といった表示だけでは、心臓病に適したナトリウム量か判断できません。
主治医から具体的な目標を示されたら、メーカーにナトリウム量を問い合わせます。その際は、水分量が異なるドライとウェットを単純なパーセントで比べるのではなく、カロリー当たりの量や乾物換算など、同じ基準で確認する必要があります。計算方法が分からない場合は製品情報を病院へ持参しましょう。
| 状態の例 | 食事で重視すること | 注意点 |
|---|---|---|
| 無症状の心筋症 | 総合栄養食、適正体重、安定した摂取 | 自己判断の厳格な減塩は避ける |
| 安定した心不全 | 高塩分食品を避け、指示された範囲で調整 | 薬、腎機能、電解質と一緒に管理 |
| 重い・治りにくい心不全 | 病状に応じたナトリウム調整 | 食欲低下時はカロリー確保が優先されることがある |
| 体重・筋肉が減少 | 食べられる量と栄養密度の確保 | 低塩分にこだわって絶食させない |
| 腎臓病を併発 | リン、水分、たんぱく質なども検討 | 心臓と腎臓の優先順位を主治医と決める |
必要な栄養を確保する
心臓のための食事は塩分だけではありません。エネルギー、たんぱく質、タウリン、電解質などを過不足なく保つことが重要です。
カロリーとたんぱく質
心不全が進むと、食欲低下、呼吸に使うエネルギーの増加、炎症などが重なり、脂肪だけでなく筋肉も失う「心臓性悪液質」が起こることがあります。筋肉が落ちると体力が低下し、薬への反応や生活の質にも影響します。
体重だけでは、脂肪が増えて筋肉が減った変化を見逃すことがあります。毎回同じ条件で体重を測り、背骨、肩、腰、後肢の筋肉の厚みも確認します。体重が増えた場合も、食べ過ぎだけでなく胸水やむくみなど体液貯留の可能性があるため、短期間の変化は病院へ伝えます。
健康な成猫では、猫用総合栄養食から十分なたんぱく質を摂ることが基本です。心臓病だからといって、理由なくたんぱく質を減らす必要はありません。ただし、腎臓病など別の病気がある場合は調整が必要なので、検査結果に沿って判断します。
タウリン
タウリンは猫の心筋や網膜などの機能に不可欠です。タウリン欠乏は拡張型心筋症の原因になることがあります。現在の適切に設計された猫用総合栄養食では必要量が考慮されていますが、犬用フード、菜食、肉だけの手作り食、栄養設計が不明な食事では不足の危険があります。
拡張型心筋症や心臓の収縮機能低下がある猫では、食事歴の確認や血中タウリン濃度の測定が勧められることがあります。欠乏が確認された、または強く疑われる場合は、獣医師が食事変更とタウリン補給を指示します。
タウリンは多く与えるほど肥大型心筋症が改善するというものではありません。総合栄養食を食べている猫に、自己判断で人用サプリや複数製品を足すことは避けてください。
カリウムなどの電解質
利尿薬は余分な体液を排出する重要な薬ですが、腎機能やナトリウム、カリウムなどの電解質に影響する場合があります。低カリウム血症では筋力低下、元気消失、食欲低下などが現れることがありますが、症状だけで判断できません。
血液検査で不足が確認された場合に、獣医師が食事や補助剤で調整します。カリウムも過剰になれば危険で、腎機能や使用薬によっては血中濃度が高くなることがあります。「利尿薬を使っているから」と予防的にサプリを足さないでください。
マグネシウム、ビタミンB群、脂肪酸なども心臓病の栄養管理で話題になりますが、猫での必要性と適量は個体ごとに異なります。特定成分を単独で増やすより、完成した食事としてバランスが取れていることを優先します。

フードを選ぶ手順
食事は、猫が実際に食べられ、家庭で継続できることが前提です。病名だけで製品を選ばず、主治医の目標から候補を絞ります。
現在の食事を把握する
まず、主食、おやつ、投薬用食品、サプリ、人からもらう食べ物を含め、一日に口にするものを一覧にします。商品名、味、ドライ・ウェットの別、実際に食べた量も記録します。
確認したい項目は次のとおりです。
- 猫用の総合栄養食か
- 対象年齢が合っているか
- 一日の摂取カロリーは足りているか
- ナトリウム量をメーカーが回答できるか
- 腎臓病など併発疾患に配慮できるか
- 猫が無理なく食べ続けられるか
- 投薬用のおやつを含めて高塩分食品がないか
心臓病用やナトリウム調整食が提案されることはありますが、猫が食べない製品を理想だけで選んでも管理は続きません。数種類の候補から嗜好性、必要栄養、費用、入手性を合わせて選びます。
切り替えは病状に合わせる
安定していて食欲がある猫なら、通常は元のフードへ新しいフードを少しずつ混ぜ、便や食欲を見ながら段階的に切り替えます。ただし、退院直後、呼吸が不安定、食欲が大きく落ちているなどの状況では、新しい食事への変更が負担になることがあります。
いつから何へ替えるかは退院時に確認してください。薬の開始とフード変更を同じ日に行うと、食欲低下や消化器症状の原因が分かりにくくなる場合もあります。治療上急ぐ必要がなければ、一度に多くを変えない方法が役立ちます。
水は自己判断で制限しない
心不全で体液がたまるからといって、飲み水を減らしてはいけません。利尿薬を使っている猫では、十分な水へ自由にアクセスできることが重要です。水分制限は脱水や腎機能悪化につながる危険があり、獣医師から特別な指示がない限り行いません。
新鮮な水を複数か所に置き、器を清潔に保ちます。ウェットフードの利用やフードへの加水が適する場合もありますが、食事全体のナトリウム量、カロリー、猫の好みと合わせて主治医に相談します。
食欲低下への対応
心臓病の猫が食べないときは、単なる好き嫌いと決めつけません。呼吸困難、吐き気、薬の副作用、腎機能悪化、電解質異常などを確認する必要があります。
先に呼吸を確認する
食事を勧める前に、呼吸が苦しそうでないか観察します。口を開けて呼吸する、胸や腹を大きく動かす、首を伸ばす、横になれない、舌や歯ぐきが青白いなどがあれば緊急です。食べ物や薬を口へ入れず、猫を興奮させないようにして、直ちに動物病院へ連絡してください。
安定しているときから、眠っている状態の呼吸数を主治医の指示に沿って測っておくと変化に気付きやすくなります。胸の上下を一回として一定時間数え、日時、数値、薬、食欲を記録します。基準値や連絡すべき増加幅は、その猫の状態に合わせて主治医に決めてもらいます。
食べやすさを工夫する
呼吸が安定し、獣医師から自宅で食事を促してよいと指示されている場合は、次を試せます。
- 静かで落ち着ける場所に少量ずつ出す
- 香りが立つ程度に人肌へ温める
- 食べ慣れた食感や器を使う
- 一度に大量ではなく回数を分ける
- ほかの動物と離してゆっくり食べさせる
- 薬を混ぜた食事と通常の食事を分ける
温めたフードは傷みやすいため、食べ残しを長時間置きません。人用のかつお節、ハム、チーズ、スープなど高塩分の食品で食欲を誘うのは避けます。猫用おやつでもナトリウム量が不明なことがあるので、毎日の使用は確認が必要です。
強制給餌をしない
呼吸が速い、吐き気がある、飲み込みに問題がある猫へシリンジで無理に食べさせると、食べ物を気道へ吸い込む危険があります。また、口へ押し込むことで食事自体を嫌いになり、その後の管理が難しくなることもあります。
食べない状態が続く猫では、食欲増進薬、吐き気止め、入院管理、栄養チューブなどが検討されます。食欲増進薬だけで必要カロリーを摂れているとは限らないため、実際に食べた量を測ります。猫は絶食が続くと肝リピドーシスの危険があるので、早めの相談が重要です。
連絡時に伝える情報
食欲低下があれば、次の情報を病院へ伝えます。
- 最後に普段どおり食べた日時
- 直近24時間に食べた種類とおおよその量
- 水を飲む量、尿量、嘔吐や下痢
- 安静時の呼吸の様子と記録
- 服用している薬、飲み忘れ、投薬後の変化
- 体重の増減、元気、姿勢
薬を飲ませたあとに食べなくなった場合も、自己判断で中止しません。心臓薬や利尿薬を急に止めると危険なことがあるため、必ず処方した病院へ連絡します。
緊急受診すべき症状
心臓病の猫では、呼吸困難とうっ血だけでなく、血栓塞栓症にも注意が必要です。食事の相談より救急対応を優先する状態があります。
呼吸の異常
口を開けた呼吸、明らかに速く苦しそうな呼吸、腹部を大きく使う呼吸、横になれない、ぐったりして反応が弱い場合は、肺水腫や胸水などの可能性があります。猫をキャリーへ静かに入れ、移動中も暑くしたり胸を圧迫したりしないようにします。病院へ事前連絡し、酸素対応などの準備を依頼してください。
咳がないから心不全ではないとはいえません。猫の心不全では犬ほど咳が目立たず、呼吸数の増加、活動性や食欲の低下が手掛かりになることがあります。
ペットの体調や薬で悩んだときは?
ペットの体調に異変があると、「すぐに病院へ行くべき?」「少し様子を見ても大丈夫?」と対応に悩むことがあります。
呼吸が苦しそう、けいれんしている、意識がおかしい、強い痛みがあるなど、緊急性が疑われる場合は、早めに動物病院へ相談しましょう。
一方で、緊急性が低く、受診すべきか迷っている場合や、薬・予防・日常の健康管理について確認したい場合は、オンラインで獣医師へ相談する方法もあります。
ペットくすりでは、獣医師への無料相談サービスを利用できます。
ちょっとした疑問や受診前に確認しておきたいことがある場合は、相談してみましょう。
※オンライン相談は、動物病院での診察・検査・治療に代わるものではありません。症状が強い場合や悪化している場合、診察や検査が必要と思われる場合は、動物病院への受診を優先しましょう。
後ろ足の急な異常
心臓内にできた血栓が動脈へ詰まると、後ろ足が急に動かない、強く痛がる、肉球が冷たい、色が白いまたは紫色になることがあります。これは動脈血栓塞栓症が疑われる緊急事態です。足をもんだり温めたりせず、すぐ病院へ連絡して搬送します。
失神、けいれん、突然の著しい元気消失も緊急性があります。食べていないことを心配して食事や水を口へ入れると誤嚥の危険があるため、まず救急相談を優先してください。
心臓病の食事のよくある質問
- 心臓病と診断されたらすぐ療法食に替えますか?
-
必ずしもすぐ替えるわけではありません。無症状か心不全があるか、腎臓病などの併発、体重、食欲、薬によって必要な栄養管理が異なります。現在のフードと食べた量を主治医へ伝え、変更の目的と時期を確認してください。
- 塩分は完全にゼロにしたほうがよいですか?
-
いいえ。ナトリウムは必要な栄養素で、ゼロにするものではありません。高塩分の人用食品は避けますが、制限の強さは病期に応じて決めます。厳しい制限で食べなくなる猫では、カロリー摂取を優先することがあります。
- タウリンサプリで心筋症は治りますか?
-
タウリン欠乏による拡張型心筋症では、獣医師による補給と食事変更が重要です。しかし、すべての猫の心筋症がタウリン欠乏で起こるわけではなく、肥大型心筋症を自己流のサプリで治せるわけでもありません。食事歴と検査に基づいて判断します。
- ウェットとドライはどちらがよいですか?
-
形状だけで心臓病への適否は決まりません。総合栄養食か、ナトリウム量、カロリー密度、併発疾患、猫が食べられる量を比べます。ウェットは水分を摂りやすい一方、製品ごとの栄養は異なります。主治医が示した条件に合うものを選びます。
- 食べないときは薬を休んでもよいですか?
-
自己判断で休薬しないでください。食欲低下は心不全の悪化、腎機能や電解質の変化、薬の影響などで起こる可能性があります。呼吸状態と食べた量を確認し、処方病院へ当日中に連絡します。呼吸困難があれば救急受診が優先です。
まとめ
猫の心臓病の食事は、病状と治療内容に合わせて個別に決めます。高塩分の人用食品やおやつは避けますが、極端な塩分制限を自己判断で始めるのは適切ではありません。症状のない段階、安定した心不全、治療に反応しにくい重い心不全では、塩分とカロリーの優先順位が異なります。
猫用総合栄養食を基本に、十分なカロリーとたんぱく質で体重・筋肉を保ちます。タウリンは重要ですが、補給が必要なのは欠乏や特定の心機能異常が疑われる場合です。利尿薬を使用している猫では、腎機能やカリウムなどの電解質も定期的に確認し、水を自己判断で制限しないでください。
食欲が落ちたら、まず呼吸を観察します。苦しそうな呼吸、口呼吸、後ろ足の急な麻痺や痛みは緊急です。呼吸が安定していても、食べない状態が続く前に主治医へ連絡し、吐き気、薬、腎機能、栄養補助の方法を見直します。理想的な成分表にこだわって絶食させるより、その猫が安全に必要量を食べられる現実的な計画を、獣医師と調整することが大切です。

